Mag-log in両親に無理を言い、今日はとびきりオシャレをさせてもらった。
ごくごく薄い水色を基調としたプリンセスラインのドレスに、腕はオフショルダータイプのパフスリーブで、胸元は大胆にあけてみた。
髪は綺麗な真っすぐのホワイトブロンドだと両親にもよく褒められるので、あまり結い上げずにブルーグレーの蝶のモチーフの髪飾りだけを着ける。首元には派手すぎないジュエリーと扇を持ってエントランスに向かうと、ドミニク様がすでに迎えに来てくれていて、私を階下で迎えてくれた。
「ティナ、凄く素敵だよ。見違えた……すっかり大人の女性だね」ドミニク様は私のドレス姿に目を見開いた後、片手を下からすくい上げながら挨拶してくれる。
あまりにもスマートな所作に私の心臓が高鳴り、上手く言葉が出てこない。
「……ドミニク様もとても素敵ですわ。正装を間近で見るのは初めてかも」「そうかな?久しぶり過ぎて何を着ようか迷ってしまったよ。では行こうか」
「はい!」
両親によろしくお願いしますと頭を下げられたドミニク様は、手を振って応えていた。子供のお守りのような形になってしまい申し訳ない気持ちを抱きつつ、二度とない機会を楽しもうと気持ちを切り替えたのだった。
~・~・~・~・~・~「緊張してる?」
王宮に着いて優しくエスコートしながら微笑み、私の心配をしてくれる姿に感動し、喜びでいっぱいになる。密かに片想いしている方と一緒に夜会に出席出来る機会がやってくるとは思っていなかったし、一生に一度の事だから今日の何もかもを胸に刻みたい。
「大丈夫ですわ、ドミニク様。無事夜会に出席出来てホッとしています」「良かった。まだ時間があるからサロンで休んでいようか。私は飲み物を取ってくるからティナは座っていて」
「ありがとうございます」
私を常に気遣って動いてくれるドミニク様の姿にうっとりしながらも、一人になった私は席に座りながら、ヤヌシュからの手紙について少し考えていた。 婚約者なので当たり前のように当日は一緒に行くものと思っていたけれど……こんな事は初めてで、まだ原因は分かっていない。フェンデルバーグ家にお父様が確認しているはず。
何かあったのかしら……最近は会う頻度も減っていたし、あまり会話も弾まなくなっていたから、何かあっても私に言ってくれそうもないのでお手上げ状態だった。
ヤヌシュとは、私が8歳の時に婚約を結んでから今に至るまで、婚約者として甘い雰囲気になる事もなくここまできた。幼い頃は仲良く遊んでいた記憶もあったけれど、いつからか口数も少なくなって……その間も淑女教育に励む私とは正反対に、ヤヌシュが遊び歩いているという噂がまことしやかに囁かれるようになる。
公爵家に生まれ、嫡男として将来を約束されていて、婚約者もいる立場なのに、どうして?
私は噂の真偽を確かめたくて、ある日ヤヌシュにやんわりと聞いた事があった。するとヤヌシュは驚くほどあっさり認め、私に信じられない言葉をなげかけてきたのだ。
「君がお子ちゃまだから、つまらないんだよ。会ってもだんまりだし、見た目も子供くさくて……」「そんな……」
「ふふっ。僕が他に楽しみを求めるのは当然だろう?それに公爵家の跡取りとして、こういう経験もしておかないとね」
「…………っ」
一瞬何を言われたのか分からなかった。その時の私は14歳になったばかりで、2歳年上のヤヌシュから見たら確かに子供に見えたかもしれない。
見た目まで揶揄され、自分ではどうしようも出来ない部分を理由にされると、何をどうすればいいのか分からなくなって酷く混乱したのを覚えている。
そして混乱する私にさらに追い打ちをかけるかのように、ヤヌシュは言葉を続けた。
「君がもう少し大人の女性になったら相手をしてあげるから」私が驚いて目を見開きヤヌシュを見つめていると、いつもはほとんど無表情に近いヤヌシュが怪しい笑みを浮かべていた。
こんなヤヌシュは知らない……私は初めて見る幼馴染のほの暗い笑みに背筋が寒くなり、その場で固まってしまったのだった。
ヤヌシュのお父上であるフェンデルバーグ公爵は、この国で王族の次に絶大な権力を持っている宰相閣下なので、そんな事を言われたからといって両家の婚約の話をなかった事には出来ない。
ヤヌシュはいずれは当主になる人物……彼が恥ずかしくないように淑女教育にも一生懸命励んだ。相変わらず彼に対する気持ちは友達以上にはならなかったけれど、婚約者として、幼馴染として大事には思っていたし、幼い頃の優しいヤヌシュを一生懸命思い浮かべながら、結婚したら2人でいい関係を築いていきたいと願っていたのだ。
もうヤヌシュにはそんな気持ちすらないのかしら……。
王家主催の夜会すらも断りが入るなんて。
ぼんやりと考えていると、突然私の前に驚くべき人物がやってきたのだった。
「やぁ、クリス」「ヤヌシュ?どうしてヤヌシュがここに?今日は一緒には行けないって……」
「今日は君に話があって来たんだ」
ヤヌシュの腕には、チェリーピンクの髪をふんわりと巻いて、前髪は眉毛のあたりでカールしている大きな瞳の可愛らしい女性の腕が絡みついていた。 2人はこれでもかと言うくらい密着していて、いかにも深い仲といった感じがヒシヒシとしてくる。 嫌な予感しかしない―――― 「僕は……隣にいるこの女性と結婚したいんだ。だから君との婚約を破棄しようと思っている」「えぇ?!」
突然の婚約破棄の宣言に変な声が出てしまい、周りの注目を一気に集めてしまった。 「こ、婚約を破棄しようと思っているって……そんなのここで宣言されても突然出来るものでもないでしょう?!」「でも彼女のお腹には僕の子供がいるんだよ」
「そ、そんな……」
「それに、僕は見つけてしまったんだ…………真実の愛を……!」
し、真実の愛って……そもそもこの婚約はフェンデルバーグ家から申し込まれたもので、閣下を前にこちらは断る事が出来ない状況だったとお父様から聞いている。それなのに勝手に破棄しようと思ってると言い始めるなんて……しかもこんな公の場で、このようなやり方しか選択出来ないとは。
「ヤヌシュ、あなたの言い分も分かるけど、もう少しやり方を考えてくれないと……」「ヤヌシュ様を責めないで!ご自分が選ばれなかったからって、そのような仰りよう……あんまりですわ!」
「ナタリア……」
ナタリア嬢って言うのね。挨拶もなしに完全に2人の世界に入ってしまっている。選ばれなかったって言われてしまったわ。
まるで私の方が悪者のような構図が出来上がってしまっていた。
「私は責めてるわけではありません」「その言い方が責めているって言ってるのです!ヤヌシュ様……クリスティーナ様が怖いですわっ」
周りにも沢山の見物人がいて、この修羅場をしっかり見られてしまっている。
なんて分が悪いの…………溜息しか出ない。
「はぁ……」「クリスティーナ様は意地悪ですわ……私のお腹にはヤヌシュ様との御子がいらっしゃるのですよ?私達の幸せを考えて、引いて下さるべきなのでは?」
ナタリア嬢は自己紹介もしないまま、私を責め立ててきた。確かに子供には罪はないし、お腹の子の幸せを考えていないわけではないわ。
でも不誠実な行いをしたのは向こうなのに、なぜ私が責められなければならないの?
「もちろん御子の幸せを考えています。でも――」このやり方は、どう考えてもおかしい。
そう断言出来るけど、ナタリア嬢はこちらの言い分に対して全て被害妄想で返してくるので、話が通じる感じがしない。
「クリス、君はいつまで子どもっぽいんだ。君には本当の愛なんて分からない」「クリスティーナ様が正式な婚約者だということは分かっていますわ。でも、お腹の子に罪はありません……この子を父親のいない子にするおつもりですか?」
なんだか何を言っても悪者にされそうな雰囲気。二人とも私の言葉などまるで聞いてないもの。
私たちがそんな話で揉めていると、周りにいる見物人がヒソヒソと噂をし始める。
「婚約破棄ですって?」 「クリスティーナ様がお二人の仲を引き裂こうとしているの?」 「ヤヌシュ様のご婚約者はクリスティーナ様では?」 「そもそも今夜のクリスティーナ様のパートナーは、なぜオーレンブルク公爵だったのかしら?」 「まさかクリスティーナ様が不貞を?」 口さがない人々によって、あらぬ噂が囁かれ始める。これは良くない事態になりそう。
「……分かりましたわ。お二人とも、お腹の御子と共にお幸せに」 私は俯きながらカーテシーをしてひと言そう伝えると、その場を走り去った。周りからは、婚約破棄されて涙ながらに走り去る私に対して様々な声が聞こえてくる。
でもそんな事はどうでも良かった。
だって私にも……ずっと胸に秘めている片想いの方がいたから――――公の場で突然婚約破棄をお願いされた事はとても腹立たしい。
でも大切にされない婚約から解放された喜びがどんどん湧き上がってきて、笑みをこらえる事に必死で走り去ったとは、きっと誰も思ってはいないでしょう。
理不尽な状況への悔しさと喜びが綯い交ぜになって、私自身どうして涙が出てくるのか、自分の感情を持て余しながらその場を後にした。
すぐに扉を閉じて鍵をかける。 「あ、あなたたち……どうして…………っ」 「シェリアン様!」 私は無事を確認したくて駆け寄った。 そして体のすみずみまでチェックし、どこも傷などがないことを確認すると、大きな息を吐く。 「良かったです…………ご無事で安心しました」 「クリスティーナ……!」 シェリアン様は感極まり、涙を流して私に抱き着いた。 お可哀想なシェリアン様……あのような場所で自身が人質として攫われるなんて夢にも思っていなかったはず。 私の首に回した腕が、小刻みに震えている。 どれほど怖かっただろう。 でも王女としての矜持を持ち、お心を奮い立たせていたに違いない。 私は宥めるように背中を摩り、彼女の気持ちが落ち着くのを待った。 やがて震えは止まり、ゆっくりと顔をあげたシェリアン様の表情は少し安堵の色が窺える。 「シェリアン様、よくぞ耐えてくださいました」 「……っ、当然よ。あいつらの前で弱音なんて吐くものですか。私はツェットリーニ王国の王女なのだから」 「あなたは強いお方ですね。ご無事なお顔を見られて安心しましたよ」 「カルロ王子……あなた、本当にこの国をひっくり返す気?」 シェリアン様の問いにカルロ様は真剣な面持ちで即答する。 「もちろんです。この世界のために為すべきことは何か、もう分かっています」 「そう……良い顔をしていますわ。応援しますわよ」 「感謝します……っ」 私とダンは顔を見合わせる。 カルロ様はシェリアン様のお言葉に顔を赤くし、少し俯いた。 お二人の会話が良い感じだわ……もしかしたらこの先、ツェットリーニ王国とカラドゥス王国の関係は良好になっていくかもしれない。 そんな未来が見えた気がして、思わず嬉しくなる。 「ラディ、ドミニク様に知らせてほしいの。シェリアン様は無傷でご無事ですって」 『お任せください!』 「気を付けてね」 『すぐに戻ります』 この部屋は地下で窓がないため、扉を少し開くとラディが飛び立っていった。 彼は小さいし、見つかることもないでしょう。 私たちもシェリアン様に要件を伝えたらここを出なければ。 「シェリアン様、これからドミニク様と帝国軍がこのカラドゥス王国の王城に向かってきます。恐らく1、2日中には到着されるはず」 「ええ」 「彼らが外からカラドゥス王
翌日、ダンとカルロ様と共にカラドゥス王国の王城へと移動した。 まだシェリアン様は到着していないとは思っていたけれど、魔女の眼を使ってみてもやはり城内に彼女の気配はなく……。 その日に朝、昼、夜と3回にわたって移動してみたけれど、シェリアン様の気配を感じることはできなかった。 やはり女性を連れて隠密で動くにはそれなりに日数がかかるということなのだろうと思い、その日は諦めてまた翌日に同じように動くことになったのだった。 朝と昼は空振りに終わり、その夜——。 「では、また行きましょう」 「うむ。カルロ、何度もすまないが昨夜と同じ場所を想像してくれ」 「分かりました」 ダンからの要求にカルロ様は静かに頷いて返事をする。 彼がダンが持つ手鏡に手を置いたので、皆一緒にカラドゥス王国の王城へと瞬間移動したのだった。 ◆◆◆◆ 私たちが到着したのは、王城の裏庭。 あまり手入れされている感じはなく、私たちの膝丈くらいまで雑草が生い茂っている。 王城自体も古い古城といった感じで、風情はあるけれど手入れされている様子ではないというのが初見の印象だった。 王宮や王城は国の状態を物語っているので、カラドゥス王国が豊かな国ではないということだけは理解できる。 シェリアン様を攫うくらいですものね……リドメキシアの流通も止められ、相当切羽詰まっているのでしょう。 到着した瞬間、辺りを見回して口を開いた。 「うむ。やはり昨夜とは違う気配を感じるな……城内もバタバタしている様子だ」 彼女の眼が金色になっている……魔女の眼を使ったのね。 「シェリアン様が到着している可能性が高いわ。カルロ様、ここからどうやって王城内へ?」 「城の内部には隠し通路が張
ダンの庵から降りると、見上げたカルロ様は感嘆の声を上げた。 「中に居たら気付きませんでしたが、素晴らしい庵ですね!」 「フッ。当然だ。なかなか人間が侵入することは難しいだろう」 「古の魔女が住むに相応しいです!」 「お主、なかなか見ごたえのある男だな」 ダンは住まいを褒められて上機嫌になり、カルロ様を可愛がり始める。 こんなところを皇帝陛下に見られたら、カルロ様のお命が危なくなるのでは……。 カルロ様の方はと言うと、エデンの何もかもが目新しく新鮮で、子供のように瞳を輝かせて目移りしていた。 ラディは大きくなり、悠々と羽ばたいている。 まだ夜ではないので珍しい生き物は見られないけれど、カルロ様にとっては全てが珍しいようで、あちこち移動しながら触ろうと試みたりしていた。 「うふふっ。カルロ様ったら……ここに住むと言いそうな勢いね」 「あやつめ。触れると怒る生き物もいるというに」 ダンがそう言った瞬間。 「うぁっ!」 「カルロ様!」 「カルロ!!」 私たちが駆けつけると、足の長いイノシシの体躯をした生き物に顔を舐められている最中だった。 「この子はイノシシ、ではないのよね?」 「はるか昔の姿だな。もとは足も少し長かった……しかし随分気に入られたようだな、カルロ」 ダンは声をかけつつも助けようとはしない。 舐められ続けているカルロ様はこちらに助けを求めているのだけど……分かっていて放置しているような。 「ぶふっ……ぐっ……少し鼻を撫でただけ、なんですっ!」 「はっはっはっ。気持ち良かったのだろう」 ダンは大
どうやら手鏡が導いた場所はカルロ様の部屋だったらしく、窓辺に佇むカルロ様の後ろ姿が目に入ってくる。 そしてすぐに私たちの気配に気づいたのか、殿下は慌てた様子で振り返った。 「え……クリスティーナ?!それにオブシダン様?!!なぜお二人が……!」 『私もおるのですがね……』 「ふふっ」 私の肩に乗っていたラディがため息交じりに呟くのが可愛らしくて、思わず笑ってしまう。 「突然ご訪問してしまって、申し訳ございません」 「いや、いいんだ。嬉しいよ。オブシダン様もお会い出来て光栄です」 「フッ。前よりは挨拶ができるようになったではないか」 カルロ様は前にダンを怒らせたことがあるので、彼女の言葉にたじたじだった。 でも今はそんな事を話している場合ではないわね。 「カルロ様、私たちは一足早くカラドゥス王国へ行こうと考えているのです」 「……シェリアン王女の為かい?」 「はい。人質なので命の危険はないとしても、どのような扱いを受けているのか……心配なのです」 「相変わらず君は優しいね。私のもとへ現れたということは、私も一緒の方がいいのだろう?」 「はい……」 「もちろん一緒に行くよ。君が迎えに来てくれるなんて嬉しすぎるくらいなんだから」 そう言ったカルロ様はとてもご機嫌で、すぐに持ち物の用意をし始めた。 カルロ様がいらっしゃればカラドゥス王国の王城内も分かりやすいし、心強い。 それにカルロ様自身もカラドゥス王国でやりたい事があるでしょうし……お互いに一石二鳥のはず。 「さぁ、準備完了だよ」 「では参りましょう」 「まずは我の庵に寄るぞ。色々と
帰りの馬車にて。 私はドミニク様の膝の上に乗せられながら、馬車に揺られていた。 いつもなら馬車の中では穏やかな会話をしているけれど……今はそんな雰囲気ではなく。 ドミニク様がとても落ち込んでいらっしゃって、私自身もどういう言葉をかけていいのか分からなかった。 目の前で大切な姪が連れ去られてしまったのですもの。 そのショックは計り知れない。 もし私がその場にいれば防げたかもしれない。 私は自分がすぐに彼のもとへ行かなかったことを大いに後悔していた。 「ドミニク様」 私が声をかけると、いつもなら嬉しそうにこちらを見てくれるのに、今はとても目に力がない。 「どうしたんだい、ティナ」 その表情……無理に笑っていて、胸が痛くなる。 だからこそ伝えなくては。 「私、当初の予定よりも早くカラドゥス王国へ参ります」 「……なぜ?」 皇帝陛下の作戦は、カラドゥス王国を内と外、両方から叩くというものだった。 私とダンとカルロ王子が先にカラドゥス王国へ行き、カルロ王子が私を連れて来たという名目で王城へ乗り込み、私とダンの力で事城内を制圧する。 外からは皇帝陛下やドミニク様が帝国軍を率いて進軍し、完全にカラドゥス王国を制圧するというもの。 常に連絡を取り合いながら同時進行で進めていこうという話になった。 その作戦自体に問題はないし、私とダンがいれば城を制圧するのは容易いと思う。 でも————。 「制圧自体は大丈夫ですが、とにかくシェリアン様が心配で……彼女の無事や安全が確認できないと。国王陛下や王妃殿下にも早くお知らせしてあげたいですし……」
ダンスを一通り終えてそろそろドミニク様のもとへ行こうとした時、突如腕を掴まれて振り向く。 するとそこには本人が立っていた。 でもその表情は凍り付いていて、何か良くないことが起こったのがすぐに伝わってくる。 「ドミニク様……?」 「叔父上、何かあったのですか?」 「落ち着いて聞いてほしい……シェリアンが連れ去られた」 「「え?!」」 「詳しい事情は歩きながら話す。ひとまず王宮内へ行こう……!」 私とディクセル様は共に頷いた。 そして王宮内へ向かう間にドミニク様から事情を聞き、あまりの手際の良さに驚きを隠せない。 「そんな一瞬で……」 「私の失態だ……!すぐ隣にいたのに!」 「叔父上、相手も手練れです。失敗は許されない。とにかく今はシェリアンを救い出す方法を皆で考えましょう」 すぐに皆が集まる応接間へと到着し、扉は固く閉じられて鍵がかけられた。 王国の王女が連れ去られたことは、絶対に民に知られるわけにはいかないものね。 応接間には国王夫妻や皇帝陛下、バズズ様、セリス嬢、カルロ王子が待っていた。 国王陛下も王妃殿下も顔色が真っ青だわ……ディクセル様はお二人に寄り添う為に駆けていく。 そんな中、皇帝陛下が冷静に口を開いた。 「集まったか。カルロからも聞いたが、刺客は彼の教育係でもある爺や……カラドゥス王国先王の側近メディチ・パラボーナだ。隠密行動を得意とする男でもう引退したかと思っていたが」 「それほどカラドゥス王国も焦っているということでしょう」 皇帝陛下の御言葉にバズズ様が冷静に返す。 「奴らの要求は白の魔女、クリスティーナだ。帝国からリドメキシ
「ティナとヤヌシュ君の婚約は、陛下の了承の元、解消する事が無事に決定したよ」 婚約破棄騒動があってから2日後、お父様が朝の食事の席で私に報告をしてくれた。 「そうですか」 お父様からの報告にとてもホッとしている自分がいる。 あんな事があってこれ以上婚約者でいる事は不可能だし、何よりお互いに想い人がいる状態なのだから、この婚約は解消した方が良かったのよね。 ヤヌシュの方にはナタリア嬢のお腹に彼の子供が宿っている。 不誠実な事をしていたとは言え子供に罪はないから、彼らの幸せを祈る事にしよう。 「まさかもうお相手のお腹に子供がいるとは驚きだけどね……」 私はこの婚
バタバタと王宮内を走り抜ける。 たしか裏庭にガゼボがあるから、早くそこへ行きたい……ほとんど人通りのない廊下を通り抜けて裏庭のガゼボにたどり着く。 そして中にあるベンチに座り、項垂れた。 「はぁ……はぁ…………っ」 荒い息を整えて、今の状況を頭の中で整理してみる。 一緒にいたナタリアという女性と結婚したいから、私との婚約を破棄したいと言うヤヌシュの顔は、今まで見た事もないくらい真剣で蕩けるような表情だった。 私には決して向けられることのなかった顔――。 本当に真実の愛を見つけたのね。 それは幼馴染として祝福してあげなければならなかったのかもしれない。 ただ、何もあの
中に入れた彼の指がグイッと曲げられ、一か所をトントンし始める。 指の動きに合わせて、体中に電流が走ったかのような感覚に襲われ、嬌声が大きくなっていった。 「あ?や、ソコ…………だめっ…………あぅ……ひっ、あぁっ……!」 「ここが気持ちいいんだね、もっと気持ちよくなっていいんだよ」 「あぅ……あ、あっ……何か、キちゃう……~~~っ!」 今まで感じた事のない快感が襲ってきて、必死にドミニク様の頭にしがみついた。 そして体が激しく痙攣したと同時に、目の前でチカチカと火花が散っていく。 「ふっ……んんっ…………」 今のは何? さっ
涙を拭ってくれた手は私の頬に添えられ、やがてほんの少し触れるだけの口づけをかわした。 初めてのキスが愛する人で本当に幸せ。 「ふふっ、顔が真っ赤だ」 「仕方ないのです!初めてなのですから……」 「ふーん。ヤヌシュ君ともしたことはないの?」 ヤヌシュとは本当に友達の関係だったし、向こうに子供だと言われていたので、そういう雰囲気にすらならなかった。 この年になってキスが初めてなんて、引かれてしまうかしら。 「ヤヌシュともした事はありませんわ。この年で初めてなんて、恥ずかしい」 「恥ずかしがることはないよ、誰にでも初めてはある。ティナにとってその相手が私で、本当に光栄だ







