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第2話 婚約破棄

Author: Tubling
last update Petsa ng paglalathala: 2026-06-03 14:05:09

 王家主催の夜会当日――――

 両親に無理を言い、今日はとびきりオシャレをさせてもらった。

 ごくごく薄い水色を基調としたプリンセスラインのドレスに、腕はオフショルダータイプのパフスリーブで、胸元は大胆にあけてみた。

 髪は綺麗な真っすぐのホワイトブロンドだと両親にもよく褒められるので、あまり結い上げずにブルーグレーの蝶のモチーフの髪飾りだけを着ける。

 首元には派手すぎないジュエリーと扇を持ってエントランスに向かうと、ドミニク様がすでに迎えに来てくれていて、私を階下で迎えてくれた。

 「ティナ、凄く素敵だよ。見違えた……すっかり大人の女性だね」

 

 ドミニク様は私のドレス姿に目を見開いた後、片手を下からすくい上げながら挨拶してくれる。

 あまりにもスマートな所作に私の心臓が高鳴り、上手く言葉が出てこない。

 「……ドミニク様もとても素敵ですわ。正装を間近で見るのは初めてかも」

 「そうかな?久しぶり過ぎて何を着ようか迷ってしまったよ。では行こうか」

 「はい!」

 両親によろしくお願いしますと頭を下げられたドミニク様は、手を振って応えていた。

 子供のお守りのような形になってしまい申し訳ない気持ちを抱きつつ、二度とない機会を楽しもうと気持ちを切り替えたのだった。

 ~・~・~・~・~・~

 

 「緊張してる?」

 王宮に着いて優しくエスコートしながら微笑み、私の心配をしてくれる姿に感動し、喜びでいっぱいになる。

 密かに片想いしている方と一緒に夜会に出席出来る機会がやってくるとは思っていなかったし、一生に一度の事だから今日の何もかもを胸に刻みたい。

 「大丈夫ですわ、ドミニク様。無事夜会に出席出来てホッとしています」

 「良かった。まだ時間があるからサロンで休んでいようか。私は飲み物を取ってくるからティナは座っていて」

 「ありがとうございます」

 私を常に気遣って動いてくれるドミニク様の姿にうっとりしながらも、一人になった私は席に座りながら、ヤヌシュからの手紙について少し考えていた。

 婚約者なので当たり前のように当日は一緒に行くものと思っていたけれど……こんな事は初めてで、まだ原因は分かっていない。

 フェンデルバーグ家にお父様が確認しているはず。

 何かあったのかしら……最近は会う頻度も減っていたし、あまり会話も弾まなくなっていたから、何かあっても私に言ってくれそうもないのでお手上げ状態だった。

 ヤヌシュとは、私が8歳の時に婚約を結んでから今に至るまで、婚約者として甘い雰囲気になる事もなくここまできた。

 幼い頃は仲良く遊んでいた記憶もあったけれど、いつからか口数も少なくなって……その間も淑女教育に励む私とは正反対に、ヤヌシュが遊び歩いているという噂がまことしやかに囁かれるようになる。

 公爵家に生まれ、嫡男として将来を約束されていて、婚約者もいる立場なのに、どうして?

 私は噂の真偽を確かめたくて、ある日ヤヌシュにやんわりと聞いた事があった。

 するとヤヌシュは驚くほどあっさり認め、私に信じられない言葉をなげかけてきたのだ。

 「君がお子ちゃまだから、つまらないんだよ。会ってもだんまりだし、見た目も子供くさくて……」

 「そんな……」

 「ふふっ。僕が他に楽しみを求めるのは当然だろう?それに公爵家の跡取りとして、こういう経験もしておかないとね」

 「…………っ」

 一瞬何を言われたのか分からなかった。

 その時の私は14歳になったばかりで、2歳年上のヤヌシュから見たら確かに子供に見えたかもしれない。

 見た目まで揶揄され、自分ではどうしようも出来ない部分を理由にされると、何をどうすればいいのか分からなくなって酷く混乱したのを覚えている。

 そして混乱する私にさらに追い打ちをかけるかのように、ヤヌシュは言葉を続けた。

 「君がもう少し大人の女性になったら相手をしてあげるから」

 

 私が驚いて目を見開きヤヌシュを見つめていると、いつもはほとんど無表情に近いヤヌシュが怪しい笑みを浮かべていた。

 こんなヤヌシュは知らない……私は初めて見る幼馴染のほの暗い笑みに背筋が寒くなり、その場で固まってしまったのだった。

 ヤヌシュのお父上であるフェンデルバーグ公爵は、この国で王族の次に絶大な権力を持っている宰相閣下なので、そんな事を言われたからといって両家の婚約の話をなかった事には出来ない。

 ヤヌシュはいずれは当主になる人物……彼が恥ずかしくないように淑女教育にも一生懸命励んだ。

 相変わらず彼に対する気持ちは友達以上にはならなかったけれど、婚約者として、幼馴染として大事には思っていたし、幼い頃の優しいヤヌシュを一生懸命思い浮かべながら、結婚したら2人でいい関係を築いていきたいと願っていたのだ。

 もうヤヌシュにはそんな気持ちすらないのかしら……。

 王家主催の夜会すらも断りが入るなんて。

 ぼんやりと考えていると、突然私の前に驚くべき人物がやってきたのだった。

 「やぁ、クリス」

 「ヤヌシュ?どうしてヤヌシュがここに?今日は一緒には行けないって……」

 「今日は君に話があって来たんだ」

 ヤヌシュの腕には、チェリーピンクの髪をふんわりと巻いて、前髪は眉毛のあたりでカールしている大きな瞳の可愛らしい女性の腕が絡みついていた。

 2人はこれでもかと言うくらい密着していて、いかにも深い仲といった感じがヒシヒシとしてくる。

 嫌な予感しかしない――――

 「僕は……隣にいるこの女性と結婚したいんだ。だから君との婚約を破棄しようと思っている」

 「えぇ?!」

 突然の婚約破棄の宣言に変な声が出てしまい、周りの注目を一気に集めてしまった。

 「こ、婚約を破棄しようと思っているって……そんなのここで宣言されても突然出来るものでもないでしょう?!」

 「でも彼女のお腹には僕の子供がいるんだよ」

 「そ、そんな……」

 「それに、僕は見つけてしまったんだ…………真実の愛を……!」

 し、真実の愛って……そもそもこの婚約はフェンデルバーグ家から申し込まれたもので、閣下を前にこちらは断る事が出来ない状況だったとお父様から聞いている。

 それなのに勝手に破棄しようと思ってると言い始めるなんて……しかもこんな公の場で、このようなやり方しか選択出来ないとは。

 「ヤヌシュ、あなたの言い分も分かるけど、もう少しやり方を考えてくれないと……」

 「ヤヌシュ様を責めないで!ご自分が選ばれなかったからって、そのような仰りよう……あんまりですわ!」

 「ナタリア……」

 ナタリア嬢って言うのね。挨拶もなしに完全に2人の世界に入ってしまっている。

 選ばれなかったって言われてしまったわ。

 まるで私の方が悪者のような構図が出来上がってしまっていた。

 「私は責めてるわけではありません」

 「その言い方が責めているって言ってるのです!ヤヌシュ様……クリスティーナ様が怖いですわっ」

 

 周りにも沢山の見物人がいて、この修羅場をしっかり見られてしまっている。

 なんて分が悪いの…………溜息しか出ない。

 「はぁ……」

 「クリスティーナ様は意地悪ですわ……私のお腹にはヤヌシュ様との御子がいらっしゃるのですよ?私達の幸せを考えて、引いて下さるべきなのでは?」

 ナタリア嬢は自己紹介もしないまま、私を責め立ててきた。

 確かに子供には罪はないし、お腹の子の幸せを考えていないわけではないわ。

 でも不誠実な行いをしたのは向こうなのに、なぜ私が責められなければならないの?

 「もちろん御子の幸せを考えています。でも――」

 

 このやり方は、どう考えてもおかしい。

 そう断言出来るけど、ナタリア嬢はこちらの言い分に対して全て被害妄想で返してくるので、話が通じる感じがしない。

 「クリス、君はいつまで子どもっぽいんだ。君には本当の愛なんて分からない」

 「クリスティーナ様が正式な婚約者だということは分かっていますわ。でも、お腹の子に罪はありません……この子を父親のいない子にするおつもりですか?」

 なんだか何を言っても悪者にされそうな雰囲気。

 二人とも私の言葉などまるで聞いてないもの。

 私たちがそんな話で揉めていると、周りにいる見物人がヒソヒソと噂をし始める。

 「婚約破棄ですって?」

 「クリスティーナ様がお二人の仲を引き裂こうとしているの?」

 「ヤヌシュ様のご婚約者はクリスティーナ様では?」

 「そもそも今夜のクリスティーナ様のパートナーは、なぜオーレンブルク公爵だったのかしら?」

 「まさかクリスティーナ様が不貞を?」

 口さがない人々によって、あらぬ噂が囁かれ始める。

 これは良くない事態になりそう。

 「……分かりましたわ。お二人とも、お腹の御子と共にお幸せに」

 私は俯きながらカーテシーをしてひと言そう伝えると、その場を走り去った。

 周りからは、婚約破棄されて涙ながらに走り去る私に対して様々な声が聞こえてくる。

 でもそんな事はどうでも良かった。

 だって私にも……ずっと胸に秘めている片想いの方がいたから――――

 公の場で突然婚約破棄をお願いされた事はとても腹立たしい。

 でも大切にされない婚約から解放された喜びがどんどん湧き上がってきて、笑みをこらえる事に必死で走り去ったとは、きっと誰も思ってはいないでしょう。

 理不尽な状況への悔しさと喜びが綯い交ぜになって、私自身どうして涙が出てくるのか、自分の感情を持て余しながらその場を後にした。

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